デッドラインサーカス
Last Note.
デッドラインサーカス
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🎪はしゃごうぜ 燃え尽きるまで🎭
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第1幕『君の屍はどこへゆく』
彼が一番初めに感じたのは、頬に当たる冷たいコンクリートの感触だった。
「僕は確か……死んだはずだけど」
平和を否定した悪の政党に立ち向かい、勇敢な最期を遂げたという自覚はあった。首が吹き飛ぶ嫌な感覚も、未だしっかり残っている。しかし、バラバラになったはずのそこに指を絡めてみても、何事も無かったかのように繋がっているだけだった。暫しの沈黙、思考の後、彼はある結論に辿り着いた。
「そうか、ここが天国か」
世界平和を謳い尽力した彼は、きっと誰もが夢に見る極楽の世界へ招待されたに違いない。彼はゆっくりと身を起こし、ぐるりと周りを見渡した。
天国、それにしてはやけに寂れた街が広がっている。もしかすると、人間が想像したほど楽園じみたものではないのだろうか。彼は首を捻りながらも、目の前に続く道へ一歩踏み出そうとした。その時だ。何者かが不意に彼の肩を掴んだ。彼が短く息を吸って条件反射で振り返ると、そこには15~6程の少年の姿があった。随分と着古された薄汚い洋服。手入れの施されていないくすんだ空色の髪は、顔の半分を覆い隠している。これだけでも充分不気味ではあったが、それを凌駕していたのは少年の顔だった。真っ白な肌に貼り付けられた口は尋常でないほど引き上げられ、奇妙な笑みを作り出していたのである。お世辞にも天使とは言えない風貌だ。彼が困惑しながら少年を見下ろしていると、陰鬱とした灰色の瞳をぐるりと動かし、少年は彼と目を合わせた。そして──
「おまえは何を勘違いしているんだ」
口を引きあげたまま、けれどはっきりとした声でそう言った。
「勘違い、とは」
「ここが天国だと言っただろう」
「違うのですか?」
「おまえはここが天国だと思うか?」
「にしては、随分汚らしい。貴方も、天使と言うには些か……くたびれているような」
取り繕うこともせず彼がそう呟くと、少年はやはり口の形状は変えず、「あっはっは」と可笑しげに声をあげた。どうしてその口の形でその母音を発音出来るのかは解らなかったが、それよりももっと理解不能だったのは、後に続いた少年の言葉だった。少年は心底可笑しいと言わんばかりに目を細めると、内緒話をするかのように囁いた。
「何を勘違いしているのかは知らんが、おまえは立派な罪人だよ。しかも、とりわけ上等なやつだ」
「…………は?」
「おや、聞こえなかったようだね。もう一度、分かりやすく、お伝えしよう。おまえは大罪人。そしてここは地獄街。おまえは今から、おれ達と一緒に終わりなき贖罪のサーカスを行うのさ」
平和の為に戦った自分が、大罪人? 何かの間違いでは無いだろうか。彼はぱちぱちと瞬きをすると、純朴な目線を少年に向けた。
「貴方こそ、勘違いをしてらっしゃいます?」
「……これはこれは、重症だ。リヴィの時以来かな」
こちらは真面目な話をしていると言うのに、一体何が可笑しいのだろう。少年は再び妙な笑い声を奏でると、細い指をくいっと曲げて手招きをした。
「まあ、とりあえずついてきな。おれはサフィ。多分これから長ーい付き合いになるよ」
「そちらの手違いを解消して頂くまでの付き合いが、貴方基準で『長い』と言うのならば、まあそうなるのでしょうね。僕はスヴァルト・クォーレと言います。以後お見知りおき……」
「スーだ」
「はい?」
「おまえの名前。これからはスーと名乗ってくれ。おれは3つ以上の発音の名を覚えられない」
蝶番のような音を立てて振り返りながら、サフィと名乗った少年はそう告げた。彼、もといスヴァルト、たった今スー、になった人物は、ふつふつと煮え滾る心をありったけの理性で押さえ込み、何とか溜飲を下げた。
「分かりました。良いですよ、スーで」
「その顔、愉快だ」
サフィはもう一度高らかに笑うと、今度は勢い余って盛大にむせ始めた。何だかよく分からない人物だが、観察していて飽きることは無い。
「すまない、行こうか」
スーは頷き、彼に後ろについてふらふらと歩く。その間際、頭上を仰げば、彼の瞳と同じ色をした鉛色の空がスーを頭上から押し潰さんばかりの勢いで重たく拡がっていた。
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サフィとスーは、1分にも、1年にも思える時間を歩き続けていた。そして、その旅はある日突然終わりを告げた。突然サフィが立ち止まった先には、この色褪せ錆びついた街には似合わないほどうるさい見目の建物があった。ピエロや動物たち、派手な服を着た演者の人形が所狭しと壁に貼り付けられ、赤と青と紫のビビットカラーが網膜を刺激する。更には主張の強い文字で『Zhertva Theater CIRCUS IS』と書かれた看板まで下がっていた。
「本当にサーカスだ」
スーが小さく零すと、サフィは嬉しそうに(とはいえ、彼の口はいつも笑っているのだが)こちらを向くと、恭しく礼をした。
「ようこそ、地獄街ジェルトヴァ通りへ。新たな仲間が出来て嬉しい限りだ。おれは君を全力で歓迎するよ」
「だから、僕は地獄に連れていかれるようなものでは無いと……」
「そう、だから今からジャッジするのさ」
呆れたように抗議するスーの言葉を遮って、サフィは瞼をきゅっと細めた。
「おまえがどれほどの罪を犯したのか。自分の視点で分からなければ、再演を見てみると良い」
そう言って、サフィがスッと右手を振った。瞬間、二人は暗い劇場の中に居た。突然のことにスーが動けないでいると、後ろからスピーカーに乗せたようなざらついた少年の声が響いてきた。
『んんっ、これ久々だから緊張するんだよなぁ~……あー、人生再演劇場へようこそ~! 自分が罪人だって? そんなハズないよね? 認めたくないよね!? わかるわかる、僕も昔はそーだった! でーもご安心! ここで人生を振り返ることで、君は君が如何に人類にとって悪いヤツだったかを、嫌でも思い知らされます』
ここで一度音声は途切れる。数秒の後、今度は気だるげな少女の声。
『はぁ……我々はマニュアル通り善と悪を振り分けます。地獄街は間違えません。そこに情状酌量の余地はありません。良いからとっとと認めやがれ』
そして劇場は暗転。僅かに灯っていた証明も全て消え、スクリーンの上に閑散とした村が浮かび上がった。
(僕の生まれた村……?)
スーはありえないほどその映像に釘付けになった。まるで何者かに操作されているみたいだ。徐々に霞む意識の中で、もう一度あの奇っ怪なアナウンスが響く。
『それでは、人生再演のはじまりはじまり~!』
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諸注意
※彼らのやり取りは、既に演目のひとつとして【観客】に見られています。
※娯楽として見られています。
※気をつけてください。
※あなたも舞台装置のひとつです。
※物語を読んでいるあなたを含めひとつの演目なのです。
※絶対に【観客】と目を合わせないでください。
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〖LYRIC〗
🧊どうかしてたんだ 火遊びショータイム
おどけたピエロ燃やせ
🎲導火線に火をつけろ 偽りの笑みはGuilty
🎈「今日盛況!」って強制しちゃってんだ
空虚に十字切ったら
👾さあ、いくぜ?stand up! Reafy? デットラインで踊れ
♟週末を終末に〔Week End⇒World'S End〕呆然
🦩この夜を塗り替えてく 終幕のないサーカス
⭐️神様だってグッスリ寝てる時間なんじゃねえ?
🪞どんな祈りも届きゃしないさ
🎭ブッ壊れた夜に迷っちゃって 不安げな顔も愛しいね
🧊♟🪞⭐️🦩🎲何もかも忘れて 遊びましょ?
🎭なんならもう狂っちゃって キミもこちら側へおいでよ
🎈👾はしゃごうぜ 燃え尽きるまで
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〖CAST〗
🧊サフィ(cv:オムライス)
https://nana-music.com/users/1618481
🎈ダン(cv:二藍つばさ)
https://nana-music.com/users/1665291
♟グレイ(cv:桐生りな)
https://nana-music.com/users/6037062
🪞ミラ(cv:瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
⭐️リヴィア(cv:日向ひなの)
https://nana-music.com/users/2284271
👾スー(cv:くらげ∞)
https://nana-music.com/users/1819852
🦩セイル(cv:しぃな♀)
https://nana-music.com/users/1278084
🎲閻魔様(cv:はいねこ)
https://nana-music.com/users/7300293
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〖NEXT STAGE〗
‣‣第2幕『正義の理』前編
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#CIRCUS_IS #デッドラインサーカス #lastnote
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