Wishing
Sooty House - Girl in the mirror -
Wishing
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【 名前を呼んでも まだ足りなくて 】
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『エリザベス』からとって『エリー』と名付けた私の生き人形は、とても優しい子だった。
私たちは、すごく仲が良かったのよ。
起きて一番にお互いに見た夢のことを話したり、甘い紅茶とあたたかいパンでお茶会をしたり、一緒にお勉強をしたり、今日あったことを教えあったり、眠るまで手を繋いだり──ほんとうに、楽しい日々を過ごした。
私もエリーもシャドーハウスに人一倍尽くしたから、星つきにもなったわ。
私たちは、最高の相性で。
だから──ずっと一緒にいられる、って。
そう、信じて疑わなかった。
疑う余地なんてなかった。
……なかった、はずなのに。
私たちの元に、封筒が届いた。
私たちは、『お呼ばれ』された。
『お呼ばれ』された一対は、『大人になる』。
シャドーハウスにおいて、それは──一体化の儀式を経て、シャドーと生き人形がひとつになることで。
それを、私たちが知ってしまったのは──『お呼ばれ』をされてからだった。
「『顔』を得るために、エリーを乗っ取れってこと? エリーの命を消すってこと!? シャドーハウスは、私に、エリーを殺して、エリーの身体で、のうのうと生きていけって言うの!?」
「……そういうこと、ですね」
「私は嫌よ!」
大人になる前の私は、今よりもずっと我が侭で、いつもエリーを困らせていた。あの子はほんとうに優しかったから、私の我が侭をぜんぶ叶えようとしてくれたのよ。
「嫌! 嫌よ! 絶対に嫌! 私、エリーとずっとずっと一緒にいたい! これから先も、何度だって貴方の名前を呼びたい! エリーがいなくなるなんて嫌! エリーを殺すなんて、絶対に嫌よッ!!」
「エリザベス様」
だけど。
「──諦めてください。これだけは、無理ですよ」
あのときだけは、違った。
「シャドーハウスに逆らってしまえば、エリザベス様の身も危険です。そんなの、あってはなりません」
「エリーが死ぬのだって、あってはならないに決まっているじゃない!」
「それは違います。エリザベス様はシャドーで、私は生き人形。立ち場が異なります。素晴らしきシャドー家の貴族と、その『顔』として仕えているだけの生き人形。『顔』でしかない私たちは、ほんとうにただの『顔』だけの存在になることが、最初から決まっていたんですよ」
きっと、ほんとうに意固地だったのは、エリーのほうだったのね。
首を縦に振らないと決めたエリーは、その綺麗な瞳からぼろぼろと大粒の涙を零しながら、聞き分けの良いことを言うだけで。
私の叫びに、拒絶に、決して頷いてはくれなかった。
それが、私を守るためだと理解してしまったら──私も、何も言えなくなって。
「だから……受け入れてください、エリザベス様。……だ……大丈夫、ですよ……一体化するってことは、私とエリザベス様は、エリザベス様が亡くなるまで、ずーっと一緒です! だから……だから、なんにも怖くない、ですよっ……!」
「……っ……エリー……!!」
私たちは、静かに抱きしめ合った。
互いのぬくもりを、しっかりと記憶に刻みつけた。
最期の瞬間まで、忘れないように。
そして私たちは、最後の散歩をした。
二人で手をつないで、ハウス中を歩き回ったの。私たちを引き裂く、大好きなエリーを殺す、ひどい屋敷でも──エリーと過ごした場所であることに、変わりはないから。綺麗な思い出は、濁ったりしないから。
星つきの私たちは、『おじいさまと共にある棟』にも行くことを許されていたから、そっちにも行ったの。
星つきになってからの、少しだけ難しくて忙しい日々をしみじみと思い返しているとき──その声は、聞こえてきたわ。
「今回の生き人形は、村の人間ではないのが混じっているようだが?」
言葉の意味は、よくわからなかった。
村? 村って、ハウスの外の話? 部屋の書物に綴られている物語の舞台になっていることもある、人間が住んでいる小さな区域?
それが、どうしたの? 生き人形と村の人間に、どんな関係があるっていうの?
理解不能な台詞に底知れない恐怖を感じて、エリーの『顔』を見れば──真剣な表情をしていた。
わけがわからない、というものではなくって──むしろ、何もかもわかっていて、だからこそ、事の深刻さに何かを思っているような、そんな顔。
「まぁ、いいでしょう。歳の割には賢そうだし。それに、おじい様のすすがあれば、すぐに他の生き人形と何にも変わらなくなるわ」
「それもそうか」
その話題は、そこで終わって──と、同時に、私は、足音を立てないように、部屋の前から逃げるように去っていた。
大人になる日を前に、シャドーハウスへの不信感が積もり積もっていく。
ほんとうに、シャドーハウスのために生きることが──エリーを犠牲に生きることが、正しいの?
私は、私は────
「──帰してあげないと」
「……え?」
部屋からかなり離れた廊下まで来たところで、エリーがぽつりとつぶやいた。
その顔は──やっぱり、さっきの真剣な表情のままで。
「村の人間ではない子が、生き人形にされてしまうなんて……そんなの、いけません。ちゃんと、その子を帰してあげないと」
これは後から知ったことだけれど──シャドーハウスは、シャドー家と繋がりの深い村の人間の子どもを洗脳して連れ帰り、生き人形とするの。その村は、村自体がすすによって洗脳されきっているから、村の慣習として当たり前になっているらしい。
だけど、あの子──アリスのエリーだけは、違った。
どうやら、旅行か何かでたまたま村の近くを訪れていただけの都会の娘が、生き人形にする子どもを選定する場へ紛れこみ、選ばれてしまったみたいで。
つまり──すすに冒され、自分の子どもをシャドーハウスに引き渡すことを受け入れている村人とは違い。
彼女は、そして彼女の家族は──シャドー家のことを、知らない。
きっと、あの子の家族は、今も帰りを待っている。旅行中にはぐれてそのまま行方不明になった娘を、探しつづけているのだ。
……もしかしたら、私のエリーは、生き人形になる前の記憶があったのかもしれない。
ほんの少しでも、朧げでも、何かを覚えていたのかも。
そのうえで、一体化するという生き人形の運命を受け入れたのかも。
だからこそ──自分は死んでしまうからこそ、新たな犠牲者を増やしたくない、と思ったのかも。
シャドーハウスを取り巻く全てを解決することは無理でも──せめて、無関係な少女が巻きこまれて死んでしまわないように、って。
私たちは、考えた。あの子を帰す方法を。
もし本物のシャドーの生き人形になってしまっては、シャドーハウスから逃れられなくなる。
だったら──あの子を、偽のシャドーの生き人形にすればいい。
シャドーはね、擬態・模倣を得意とする寄生型の妖精である『モーフ』が、人格とすす能力を得た存在なの。
『モーフ』がシャドーになるには、まず、生き人形として働く前の子どもの姿を見て、人間の姿を擬態するところから始まる。
だから私たちは、私のすす能力を応用して、モーフを模したすすを生み出した──それが貴方、アリスよ。
貴方を紛れこませるために、生き人形候補が寝かされた部屋に忍びこんだのだけれど……村の人間ではない子どもは、すぐにわかったわ。他の子と比べて、身なりがずいぶん綺麗だったから。……大切に、育てられたのね。家族に、愛されているのね。
……正直、あの時の私は、もうすぐエリーと永遠のお別れをするのに、どうして知らない少女のためにこんなに頑張ってるんだろう、なんて思ってしまっていたわ。
だけど……あの子の、最期の願いだから。約束だから。
そんな価値が貴方達にあるのか、貴方達の『お披露目』まで信じられなかったけれど……それでも、エリーが最期に望んだことだから。
あの子が、私に託してくれたことだから。
──そうした工作をしているうちに、一体化の儀式の日は、もう明日になっていた。
「エリザベス様……あの子のこと、ちゃんと帰してあげてくださいね」
「わかってるわよ。……もう、最後の最期まで、貴方は他人のことばっかりね?」
「すみません……けど、それが生き人形ですから」
私、エリザベス様の生き人形になれて、良かったです。
エリザベス様──私、信じてますから。
エリザベス様なら、私の我が侭を叶えてくれる、って。
私たちはまた会える、って。
そんな話をしながら見た夜空は──あの子と見た、最後の星空は。
ほんとうに、綺麗だった。
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𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
👑夜になったら 星の見える場所で
眠りにつくまで ずっと寄り添っていたいな
💍触れられる距離が 愛おしくて
👑その声を その体温を
👑💍もっと感じていたくて
👑だって
👑💍何度も何度も
名前を呼んでも まだ足りなくて
今日も明日も
そう二人で 👑いれたら
𝑪𝒂𝒔𝒕
👑エリザベス(cv.nagi)
https://nana-music.com/users/2014957
💍エリー(cv.瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
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𝑻𝒂𝒈
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